うめざわしゅん『ユートピアズ』感想

ユートピアズ (ヤングサンデーコミックス)

ユートピアズ (ヤングサンデーコミックス)

【異常こそが日常。理想郷は、そこにあるか…?】



週刊ヤングサンデーで2006年1号から始まった作品。ちょうど2年前になりますか。不定期に半年ほど連載されていた。当時はたしか『utopias』と英語表記だったような気がする。
全10話からからなるこの『ユートピアズ』は、幻想的で不思議な作品群だ。パッと見は普通なのに、ほんのちょっと狂ってしまった世界が舞台になる。本当にほんのちょっとなのだ。例えば、「人びとが歩くことをやめて常に走るようになった世界」とか。そういう世界でどんなことが起こるのか、うめざわしゅんはみごとに想像してみせる。皮肉や警鐘や風刺や愛情や絶望や希望や孤独などが、せつなく淡々と描かれる。いいなぁ。
毎回1話完結だが、それぞれのテーマは本当にストレートで、奇妙な世界はその手段としてさりげなく使われているに過ぎない。だから余計に、胸をうたれる。健康だと思う。当たり前のことを当たり前に大事にしよう、そんなことを考えた。


連載当時、読み始めるきっかけになったのはものすごく体重が乗っかったアオリやハシラでした*1。単行本にも収録してほしかったなぁ。とにかくヤングサンデーの勢いがすごかった時期で。いや、おそらく部数的にはむしろいつ廃刊してもおかしくないという方向に勢いがあったんだと思うが、そんなものみじんも感じさせない力強さであった。もしかしたらやばいからこそ捨て身だったのかもしれません。やばいからこそ愛情こめて作っていたのかもしれません。とにかく、変にエネルギーがつまった連載作品が多かった。現在似たようなエネルギーを持ってるのは同じく小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」あたりだろうか。「コミックビーム」はいわずもがな。


話は戻って、うめざわしゅん。彼は出てきたときには「梅沢俊一」と名乗っていたように記憶している*2ヤングジャンプで連載を持ち、単行本も出したように思う。たしか村上龍か何かのマンガ化だったはずだ。絵は浦沢直樹の亜流で、原作小説の映画版とともに終わってしまった。僕も連載開始当初こそ読んでいたが、徐々に離れてしまった。その人がこんな作品を描いてしまった。すごい。定期的な作品の発表を熱望する作家のひとりだ。

*1:アオリやハシラとは、雑誌掲載時にマンガのトビラ(表紙)や枠線の外などに入れられる文章のこと。単行本の帯の文句などと同様、編集者が考えることが普通とされる。

*2:クイックジャパンでもそんなインタビューがあったように思う。