草思社倒産/森達也『ドキュメンタリーは嘘をつく』感想


草思社倒産。
http://www.shinbunka.co.jp/


まぁすでに再建を支援する企業もいくつか名乗り出ているようだし、草思社が消えてなくなってしまうわけではない模様。きちんと体力つけてまたいい本をつくってほしいものです。


草思社の本で自分的に一番インパクトがあったのは、2005年の森達也ドキュメンタリーは嘘をつく』。講演を聴きに行ってサインまでしてもらった。



ドキュメンタリーは嘘をつく

ドキュメンタリーは嘘をつく


ドキュメンタリー作家である森達也が、過去のドキュメンタリー作品の批評や社会(特にマスメディア)への批判を交えながら、ドキュメンタリーの本質を解析し、主張する。全文に渡って、二元論への抵抗、煩悶や葛藤へのこだわり、思考停止への警告、表現行為の危うさなどを訴える。なかでも最も印象的だったのが次の部分。

一瞬でもよいから立ち止まり、これまでとは違う角度から周囲を見渡すだけで、この無自覚な共同幻想の底が露呈する。何かが違うと感じる。何かに違和感を抱く。まさしくマスゲームのように一律な動きを繰り返す周囲に、いつのまにか乗り遅れている自分に気づく。そんな些細なきっかけから始まる断層はみるみる大きくなる。オウムは放送禁止歌などを撮りながら、僕自身が何度も抱いた感覚だ。テレビのニュースや週刊誌の記事を鵜呑みにできなくなる。違う位相や側面があるはずじゃないかと意識下で希求するようになる。芽生えた疑問が、ドキュメンタリーというジャンルに触発される。テレビでは封殺される作り手の身体性や世界観に、反発や共鳴を持つことの意味を自らに問い始める。(p.166)


これだけの意識を持ったマスコミ人がどれだけいるのだろうか。日々の業務に忙殺されて立ち止まれないでいるのではないだろうか。目先の数次にとらわれず、もっと長期的な視点で自分の信ずるものをつくることができたなら、エネルギーと想像力に満ちた世の中になるように思う。


森達也は本日新刊を出した。これぞ森達也っていう、これ以上ないくらい非常に「らしい」題材。きっとすぐれた洞察がつまっているに違いない。時間ができたらすぐに読みたい。


死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

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