『2008年名古屋国際女子マラソン』感想


名古屋国際女子マラソン


有力選手がどんどん集団から姿を消していった。高橋尚子が落ち、大南敬美が遅れ、弘山晴美が残れず、坂本直子が消え、原裕美子もいなくなった。最後に先頭にいたのは、決して有名とはいいがたい超新星中村友梨香だった。初マラソンにして初優勝を飾った21歳のニューヒロインは、粘りと爆発力を兼ね備えた強く清々しい圧巻の走りで、激戦の名古屋を制してみせた。見事だ。


ラソンは観ていてつまらないという人がいる。ただ走っているだけのどこがおもしろいんだというのだ。まぁそういう風にしか観られない人もいるのかもしれないが、注意深く観ていればいろいろなことに気が付ける。小刻みに駆け引きがあったり、完全に体力が尽きて絶望的な感じで脱落していったり、圧倒的なスピードで一気に抜け出したりする。どれも割と地味ではあるけれど、それが他のスポーツに劣っているとまでは思いにくい。いや、むしろ過酷なことが好きな人にとってはたまらないものがあるんじゃないだろうか。「人間の限界を見てみたい」というのはスポーツの原点のような気がする。


ラソンはルールが非常にシンプルである。42.195kmを誰が一番速く走れるのか。道具も特にいらない。野球やサッカーなどは正直なんの役に立つかわからないけど、「誰が一番速く走れるのか、どれぐらい速く走れるのか」を決めることは興味深いし意義のあることのように思う*1


いやー、マラソンって本当におもしろいなー。






今回のその他の備忘録。


解説に有森裕子がいた。30kmぐらいの地点だったか、有森は「堀江さんの脚が残っていますね」と言った。どういうことかと思っていると「前半はスローペースだったので、脚が地面に接している時間が長くなってしまった。そうするとより脚のバネを使って走ることになり、消耗する」「しかし堀江さんはピッチを狭くして走っているから、まだ力が残っている」というようなことを言うのだ。でも堀江なんて選手、無名じゃないのか、そんな実力あるのかと疑って観ていた。すると直後、登り坂で、なんと堀江知佳が抜け出したのである。これだ。これが解説だ。こういう解説がほしかったんだ。専門家にしかわからないことをきちんと視聴者に説明する。この人はなんで速いのか、どうして勝ったのかというのを、きちんと考えて解き明かす。解いて説明するのが解説なのだ。野球なら野村克也が抜群。他のスポーツにもこういう人材がほしいもんである。相撲なんかでも、もっとうまく説明できると間口が広がるんじゃないかなぁ。


野村で思い出したが、ゲストに古田がいた。初め、古田という往年の名ランナーか名コーチなのかと思って聞いていたんだが、レース最終盤になって、「あっ、古田敦也かよ」ということに気付いた。うーん、古田は好きだけど、古田が「がんばってほしいですね」とか言ってるよりは有森の解説聞きたかった・・・


中継もかなりうまかった。うまかったというよりは運がよかったというか、タイミングがよかった。前に抜け出した選手を、VTR付きで紹介する。単純な僕は、「おお、この人がこのまま勝ちそうかな」などと思ってしまったんだが、少しするとまた局面が変わった。そこでまた別の選手に焦点を当てる。ところが当て終わったころにまた先頭が変わる・・・というような感じで、持っていた材料を過不足なく使い切ったような印象があった。消化不良を起こすでもなく、物足りなくもなかった。VTRを出すタイミングが相当よかった。混戦は予想されていたけれども、それにしてもこんなにうまく展開にハマった大会は記憶にないなぁ。東海テレビいい仕事だった。

*1:だからって別に野球やサッカーに意義がないとか、おもしろくないとか言ってるわけではないです。念のため。